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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

異様な旅行者

間もなく、応接間の窓のブラインドやドアが元のように開かれ、宗像博士と、ソフト帽と外套の襟で顔を隠した異様の人物とは、偽物の川手氏をあとに残して、さりげなく川手邸を辞去した。ソフト帽と外套の男が、替玉と入れ替わった本物の川手氏であったことは云うまでもない。同氏は咄嗟に取纒めた重要書類と当座の着換えを詰めたスーツ・ケースを、外套の袖に隠すようにして下げていた。

二人は書生に送られて、玄関を出ると、門前に待たせてあった、宗像博士の自動車に乗り込んだ。

「丸の内の大平ビルまで」

博士の指図に従って車は動き出した。

「近藤さん、サア、これからが大変ですよ。色々意外なこともあるでしょうが、驚いてはいけません。一切僕にお任せ下さるんですよ」

博士は川手氏を近藤さんと呼ぶのだ。

「お任せします。だが、山梨県へ行くのに、丸の内というのは、どうした訳ですか。汽車は新宿駅からでしょう」

と川手氏が不審を起して訊ねると、博士はいきなり口の前に指を立てて「シーッ」と制しながら、

「だから、お任せ下さいというのです。これから妙なことが幾つも起る筈ですから、びっくりなさらないように。