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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
どこからともなく、不気味な声が、まるで内しょ話のような囁き声が聞えて来た。
「俺は今、貴様の見た山本の息子、始というものだ。貴様の一家を根絶やしにする事を、一生の事業として生きている山本始というものだ」
声はどこから響いて来るのか見当がつかなかった。前からのようでもあり、うしろからのようでもあり、しかし、その低い囁き声が、地下室全体に轟き渡って、まるで雷鳴のように感じられるのだ、川手氏は全身から脂汗を流しながら、金縛りにでもあったように、身動きさえ出来ない感じであった。
「貴様の父川手庄兵衛は、乳母の訴えによって、間もなく逮捕され、牢獄につながれる身となった。無論死刑だ。しかし、俺の両親の恨みはそんな手ぬるい事で霽れるものではない。目には目を、歯には歯をだ。ところが、庄兵衛はその死刑さえ待たないで、牢獄の中で安らかに病死をしてしまった。アア、父母の恨み、俺の恨みは、一体どこへ持って行けばよいのだ。
俺はその当時、まだ幼かったので、乳母の訴えることを止めて、自分からこの手で復讐するという分別も力もなかった。あとで病死と聞いたときには、俺は泣いてお上を恨んだが、もうあとの祭だ。