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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
も知らぬことなどであった。
「で、あんたの主人には、特別に親しくしている男の友達というようなものはなかったのかね。くだいて云えば、マア情夫といったようなものだね」
中村警部が訊ねると、老婆は暫くもじもじと躊躇していたが、やがて思い切ったように語り出した。
「それがあったのでございますよ。こんなことをお喋りしてしまっては、御主人様に申訳ございませんが、お上のお訊ねですから、何もかも申上げてしまいます。
どこのお方か、何というお名前か、わたしは少しも存じませんが、何でも四十五六のデップリと肥った背の高い男の方でございますよ。その方がいらっしゃる時分には、奥様が必ずわたしを遠方へお使いにお出しになるものですから、妙な話ですが、まるでお顔を見たこともなければ、お声を……アア、そうそう、たった一度、ある晩のことでした。奥様に云いつけられたお使いを、思いの外早くすませて帰って見ますと、丁度そのお方も格子を開けてお帰りになるところで、出会いがしらに、電燈の光で、たった一度お顔を見たことがございます。それは立派な好男子の方でございましたよ」
「フーム、それで、あんたは、今でもその男に出会えば、これがそうだったと顔を見分けることが出来るかね」