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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
運送屋が帰るのと入れ違いに、待ち兼ねていた鑑識課の指紋係が、指紋検出の道具を携えて入って来た。窓のガラスだとか、襖の框や引手だとか、家の中のあらゆる滑かな箇所が、次々と検査されて行った。その結果を簡単に記すと、不思議なことに、屋内の滑かな物の表面は、悉く布様のもので拭き取った形跡があり、指紋らしいものはどこにも発見されなかったが、ただ一つ、流石にここだけは拭き忘れたのか、便所の中の白い陶器の表面に、幾つかの指紋が検出された。そして、その一つに、問題の三重渦状紋がはっきりと残っていたのである。
刑事達は歓声をあげんばかりであった。愈々三重渦巻の怪犯人は北園竜子と決ったのだ。老婆が云った四十五六の情夫というのが相棒かも知れない。噂によれば竜子は非常に若々しく見える、風にも堪えぬ風情の、なよなよとした美人だという。ただ、いくら尋ね廻っても写真が手に入らぬのが残念だが、附近の人々は口を揃えて、その美貌を説き聞かせてくれる。妖魔だ。今の世の妲己のお百は、逞しい情夫と力を合せて、残虐の数々を演じ、忽然として大都会の唯中に消え失せたのだ。
やがて、中村係長の命を受けて、四方に散っていた刑事達が、次々と帰って来た。