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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
すると、博士は幽に舌打ちをして、林の耳に口を寄せ、押し殺した声で囁き返した。
「幽霊が出るのを待っているんだよ。喋っちゃいけない。少しでも物音を立てたら、出なくなってしまうんだからね」
そう云って、叱りつけるように、肩の所をグッと押えられたので、林はもう囁き声で質問する事も出来なくなった。
変だな、先生気でも違ったのじゃないかしら、この家で人殺しがあった訳じゃなし、お化けや幽霊の出る因縁がないじゃないか。
だが、先生程の人が、こんなに真剣になっているんだから、ひょっとしたら本当に幽霊が出るのかな。一体その幽霊というのは、何者であろう。待てよ、幽霊といったって、無論昔の怪談にあるような奴が現われる筈はない。先生がそんなものを信じているとは考えられない。すると……アア、そうだ。若しかしたら……。
林助手は、何だか博士の待っているものの正体が、おぼろげに分って来たような気がした。そして、その想像が、彼をゾーッとさせた。若しそんなことがあり得るとしたら、そいつは幽霊なんかより、幾層倍も気味悪く、恐ろしい代物に違いなかった。博士がお化けとか幽霊とか形容したのも尤もである。