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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
「それで、その時木島君の近くに、怪しい奴はいなかったのかね」
「いたのですよ。女給はよく覚えていて、その男の風采を教えてくれましたが、何でも年は三十五六位、小柄な華奢な男で、青白い顔に大きな黒眼鏡をかけていたといいます。髭はなかったそうです。服装は、黒っぽい背広で、カフェにいる間、まぶかに冠った鳥打帽を一度も脱がなかったといいます。
その男が、木島君が手紙を書き終った頃、隣の席へ移って来て、何だか慣れなれしく木島君に話しかけ、別にシェリー酒を命じて、木島君に勧めたりしていたそうです。恐らくそのシェリー酒の中へ毒薬を混ぜたのではないでしょうか」
「ウン、どうやらそいつが疑わしいね。しかし女給の漠然とした話だけでは、そのまま信じる訳にも行かぬが……」
「イヤ、女給の話だけじゃありません。僕は動かすことの出来ない証拠品を手に入れたのです」
「エッ、証拠品だって?」
博士も中村警部も、思わず膝を乗り出して、相手の顔を見つめた。
「そうです。ごらん下さい。このステッキです」
小池はそう云いながら、部屋の隅に立てかけてあった黒檀のステッキを持って来て、二人の前にさし出した。