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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
妙子さんは故人とは一つ違いのお姉さん、川手氏にとって、今ではたった一人の愛嬢である。顔立ちも雪子さんにそっくりの美人、帽子から、靴下から、何から何まで黒一色の洋装で、ハンカチを目に当てながら、今にもくずおれんばかりの姿は、参拝者達の涙をそそらないではおかなかった。
予定の四時を過ぎる三十分、やっと参拝者が途切れたので、愈々引上げようと、人々がざわめき始めた頃、妙子さんも歩き出そうとして一歩前に進んだとき、悲しみに心も乱れていたためか、ヨロヨロとよろめいたかと思うと、バッタリそこへ倒れてしまった。
それを見ると、人々は彼女が脳貧血を起したものと思い込み、我先に側へ駈け寄って、介抱しようとしたが、妙子さんは、傍らにいた親戚の婦人に抱き起され、そのまま自動車に連れ込まれて、別段の事もなく自宅に帰ることができた。
自宅に帰ると、彼女は何よりも独りきりになって、思う存分泣きたいと思ったので、挨拶もそこそこに、自分の部屋に駈け込んだが、そこに備えてある大きな化粧鏡の前を通りかかる時、ふと我が姿を見ると、右の頬に黒い煤のようなものが着いているのに気づいた。
「アラ、こんな顔で、あたし、あの多勢の方に御挨拶していたのかしら」