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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

「御主人、ちょっと、もう一度あの部屋を見せて下さい。たった一つ見落していたものがあるんです」

博士は川手氏の手を引っぱらんばかりにして、せき立てた。

川手氏は、異議も唱えなかった代り、さして熱意も示さず、気抜けしたように立上って、博士と小池助手の後につづいた。

妙子さんの部屋の前まで来ると、博士はドアの把手を廻して見て、

「アア、やっぱりそうだったか。ここへ鍵をかけてさえ置いたらなあ」

と、落胆の溜息をついた。既に妙子さんが誘拐されてしまったあとの部屋へ、誰が鍵なぞかけるものか。博士は一体何を云っているのであろう。

部屋に入ると、博士は次の間を通り越して、寝室に飛び込み、昨夜まで妙子さんの寝ていた大きな寝台の上に、いきなりゴロリと横になった。そして、不作法にも、モーニングのまま、その上に腹這いになって、川手氏に話しかけたのである。

「御主人、このベッドはまだ新しいようですね。いつお買いになりました」

余りにも意外な博士の態度や言葉に、川手氏はますますあっけにとられて、急には答えることも出来なかった。一体この男はどうしたのだ、気でも違ったのではないかと、怪しみさえした。