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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

少しも分らないように出来ていた。

恐らく、復讐鬼は、家具屋から運ばれる途中で、ベッドを横取りして、予め造らせて置いたこの偽物を持ち込んだのに違いない。

「すると、これが運び込まれた時から、あいつは、ちゃんとこの中に隠れていたのでしょうか」

川手氏が、もう驚く力も尽き果てたように、投げやりな調子で訊ねる。

「そうかも知れません。或はあとから忍び込んだのかも知れません。いずれにせよ、昨夜は、早くからこの中に身を潜めていたに違いありません。お嬢さんは、それとも知らず、悪魔と板一枚を隔てて、ここへお寝みになったのです」

博士は無慈悲な云い方をした。

「そして、あいつは真夜中に、そこから忍び出し、あなたをあんな目にあわせた上、お嬢さんをこの箱の中へ押し込み、自分もここへ入って、逃げ出す時刻の来るのを、我慢強く待っていたのです」

「では、今朝になってから……」

「そうです。僕達は非常な失策をしました。まさか賊とお嬢さんとが、この部屋の中に隠れているとは思わないものですから、ここは開けっ放しにして、庭の捜索などやっていたのです。賊はその間に、廊下や玄関に誰もいない折を見すまして、お嬢さんを抱いて、ここから逃げ出したのに違いありません」