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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

「小池君、こいつは気味が悪いよ。鏡の部屋なんだ。それに出口がどこにあるんだか分らない。そのドアをもう一度押してごらん」

博士は外の闇の中にいる小池助手に、大声に呼びかけた。

「どうしても開かないんです。さっきから押しつづけているんですけれど」

「小池君、君ここへ入っても驚いちゃいけないよ。僕は何も知らずに飛び込んだものだから、ひどく面喰ってしまった。どこもかも鏡ばかりなんだ。この部屋には僕と同じ奴が千人以上もウヨウヨしているんだぜ。そして、僕と同じように、今物を云っているんだ。ハハハハハハハハ、アア、僕が笑うと、奴らも口を開いて笑うんだ」

「ヘエ、気味が悪いですね。そして、出口が分らないのですか。この戸はどっか狂ったのじゃないでしょうか。入口へ戻って、人を呼んで来ましょうか」

「アッ、開いた。開いた。君、やっと鏡の壁が口を開いたよ。じゃ僕は先に出て待っているからね」

如何にも、六角形の一つの面が、機械仕掛でクルッと廻転して、人一人通り抜けられる程の隙間が出来た。その向う側は例によって、黒暗々の闇である。

博士はそこを出ようとして、躊躇した。若し小池助手が入って来たら、こんな不気味な部屋へ一人残して置かないで、一緒に向うへ出ようと考えたからである。