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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
真の闇というものは、人の声を低くするものである。そこに漂う何かしら隠微な魂が高話を抑えつけて、囁き声にしてしまうものである。
「どうです? 少し驚いたでしょう。だが、これはまだホンの序の口ですよ。本当に怖いのはこれからです。引返した方がおためですぜ。気絶なんかされちゃ困りますからね」
闇の中から低い嗄れ声が響いて来た。恐らくは骸骨の場合と同じように、どこかにラウド・スピーカーがあって、誰かが遠くから喋っているのであろうが、闇の中だけに、つい鼻の先に真黒な奴が踞まってでもいるような気がして、二人は思わず立止った。
「ハハハハハハ、ひどくおどかすねえ。それに、帰れ帰れっていうのは、すこし卑怯じゃないか」
「そうですね。人を喰ったものですね」
大多数の見物は、この辺でとどめを刺されて、愈々引返す気になるのであろうが、博士達は引返さなかった。鏡の部屋の経験で、これが世の常の化物屋敷でないことが分ったけれど、この二人は、不気味であればある程、却って好奇心をおこす側の人々であった。それに、肝腎の死体捜索という大目的があるのだから、場内を一巡しないでは意味をなさぬ訳だ。