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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

恨めしげに見開いた目は真赤であった。唇はドス黒く見えた。眉をしかめ、目を狐のように逆立て、口を大きく開いて、わめいている形相の物凄さ。

しかも、ここにも異様なからくり仕掛けがあった。二人の男の手が動いて、鎗の鋒鋩がグイグイとそこを抉った。すると、アア、何ということだ。磔刑女は、ゾーッと歯ぎしりが出るような、聞くも無残な声で叫ぶのである。一度聞いたら、一月も二月も耳に残るような恐ろしい声で、わめくのである。マイクロフォンとラウド・スピーカーを、何と巧みに使いこなしていることだろう。

お化や幽霊を怖がらなかった二人も、流石にこの生人形には胸が悪くなった。お互の顔色が青くなっていることを認め合った。

「先生、早く通りましょう。これでは見物が逃げ戻る筈ですよ。なんてひどい見世物でしょう」

「管轄の警察の手落ちだね。こんなものを許すなんて。多分いつものお化け大会だぐらいに思って、よく調べなかったのじゃないかな」

それからの長い竹藪の細道には、或は右に或は左に、大小様々の空地があって、そこにありとあらゆる無残なもの、血腥いもの、一口で云えば、解剖学教室の最も怖ろしい光景に類する恐怖が、次から次へと、ほの暗い照明の中に、毒々しい生人形の塗料を光らせて、真に迫って、並んでいたのである。