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おうぎの

扇野

山本 周五郎

「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,727 字 · 67 页

青空文庫

ああと栄三郎は盃を置いた。

――不義者。

あのとき二人の酔った侍は「不義者」と云っていた。なにが不義者かと思ったが、その意味がいま彼にもわかるようであった。

「そこで孝之介は怒って」とおけいは続けた、「――まず先生の絵の邪魔をするために競作ということを企み、それをおつるさんに云ったんですって、おつるさんは先生のことを心配して、自分は身をひこうと思ったんだけれど、やっぱり逢わずにはいられない、悪い悪いと思いながら逢っているうちに、孝之介のほうはますます執念ぶかくなって、おまえが飽くまでいやだというなら、家老の職権で古渓先生の絵をはねてしまう、もうその手順をつけているんだなんて威かしたんです」

「それで、それでおつるは承知したのか」

「自分さえ死んだ気になればいいんだって、とうとう落籍されることになったんですわ」

「おつるがそう云ったんだな」

「おつるさんがそう云いました」とおけいはそっと眼をふせた、「――おとついお稽古の帰りに、泣きながらすっかり話してくれたんです」

「古風なやつだ」栄三郎は首を振った、「そんな手で女を口説きおとす石川も古風だが、そんな手に負けて自分をころすおつるもあんまり古風すぎる、ばかなやつだ」