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かいていごじょうほう

改訂御定法

山本 周五郎

「文藝朝日」朝日新聞社、1962(昭和37)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,422 字 · 58 页

青空文庫

と云いかけて直衛は手を振った、「まあいい、あとを聞こう」

「それで、矢堂に対する債権も、時貸し金から時服、什器といろいろあって、その合計は百八十両あまりになっている」

直衛が唇を舐めた、「――幾らだって」

「百八十両と三分幾朱かだ」

直衛は右手の食指をまっすぐに立て、鼻の上へ静かに近よせて当てた。すると左右の眼の瞳孔がまん中へ寄り、そこで止った。

「こういうことができるか」と彼は云った、「こういうふうに両方の眸子を寄せておいて、猫蜂とんぼきりぎりすの親方って、云うんだ」

宗兵衛はむっと口をつぐんだ。

「云っているあいだ両方の眼が寄っていれば勝ち、はなれれば負けさ」と直衛は云った、「ためしてみろ、なかなかむずかしいぞ」

「いまおれをからかってどうしようというんだ」

「これを殿に教えたことがあるんだ、七つか八つで、御学友にあがっていたときだったがね」と構わずに直衛は云った、「すると、いま城代になっている朝倉さんが、まだ江戸家老で御養育係を兼ねていてさ、これをみつけて怒った――若ぎみがやぶにらみにでもなったらどうするかって、たいへんなけんまくなんだ、ところでそのあとで注意してると、朝倉さん自身が陰でこっそりこれをやってるんだな、指をこうやりながら口の中で、猫蜂とんぼきりぎりすの親方ってさ」