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しんたからじま

新宝島

江戸川 乱歩

「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1940(昭和15)年4月~1941(昭和16)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,590 字 · 197 页

青空文庫

「哲雄君、代っておくれよ、僕はもうだめだ」

保君が弱音をはきました。そして、今にもひっくりかえりそうなボートの中で、やっとのことで哲雄君と席を代りましたが、しかし、いくら漕ぎ手が代っても、風と潮流と二重の力におし流されるこのボートを、どう漕ぎ返すことが出来ましょう。それに哲雄君は三人の中で一番かしこいかわりに、力は一番弱いのです。太いオールととっ組みあって、今にもうしろに倒れそうに見えます。

舵手の前にうずくまっていた犬が、このさわぎにおびえて、悲しい声で吠えはじめました。風の音、波の響、遠吠に似た犬の声、右から左からおそいかかって来る、大入道のような波頭、その中を吹き流され、おし流される小さなボート。もうこうなっては、いくらがんばっても、子供の力ではどうすることも出来ません。

「ア、いけない」

哲雄君のけたたましい叫び声が聞えました。

「エ、どうしたの?」

「オールを流しちゃった。ア、あすこだ」

哲雄君は夢中になって、ボートから体をのり出し、流されたオールを拾おうとしましたが、ちょうどその時、ドーッとおしよせた大波に、ボートがガクリと横倒しになったものですから、ハッとして身を引くと、その間に、オールは黒い波に呑まれて見えなくなってしまいました。