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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

という時勢観も、或いはかれの五十をまたいだ心のすみに潜んでいたかも分らない。

その利家は、寝耳に水の、佐々異変を知って、すぐ寝所を出、

「成政のやり出しそうなことではある」

と、つぶやきながら、顔を洗い、うがいをし、朝のように、書院へ出た。

自身、小兵衛に会い、かれの心情と、佐々の道案内に立った仔細など、つぶさに聞き取った。そのうちに、第二報をもたらした男も書院の庭へ坐った。この漁夫ていの男は、末森城から敵中突破をこころみた数名の急使のひとりで、陸路は敵に遮断されているため、海路、河北潟の沖を、早舟で大野川まで来た由を語った。

「ふたりとも、休むがよい」

と、労をねぎらって、利家は城中の広間に席を移し、ただちに、宿直の宿老や侍どもを呼びあつめて、

「すぐ、松任へ早馬を」

と、第一に、子息利長のいる支城へこれを急報させ、同時に、配下各所の将に、出動令を発した。

かれの夫人は、事態を察して、早くも、利家のよろい具足を取揃え、のし鮑、かち栗などを三方に盛り、出陣の水さかずきを、一室の灯に、調えていた。

まもなく、利家は、馬揃いの庭へ出て来た。かれの姿をそこに見ると同時に、二度目の出陣貝が、いんいんと鳴りぬいていた。