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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

雲母襖に紅白の蓮花が描いてある仏間の裾に沿うて、勝家以下、ひそと着席した。

次々に、一人来ては坐り、一人来ては、また加わった。

ひとり秀吉だけが見えない。

「はて……?」

と、いぶかりつつ眸をこらして正面の仏龕ほのかな辺りを見ると、厨子、位牌、金壁、供華、拈香などの厳かなものの影のうちに、さきの誓書一束が供えられてあるのが一しお目につく。

が、より以上、衆目をそばだてしめたのは、壇下に接して、筑前守秀吉が、喪服した三法師を膝にのせ、けろと、とり澄ましていることだった。

(これは――?)

と思わぬ者はなかったらしい。

けれどよくよく考えてみると、長谷川、前田などの傅役のほかに、秀吉も幼君の輔佐たるべしとは、昼の会議でみなが衆判の下に認めていたことである。僭上なり――とは咎められない。

そうして、臣座を超えた別格の位置に坐っている秀吉にたいし、何ら咎める理由が見出せないだけに――勝家のおもしろくない顔つきは非常なものだった。

「……いざ、お順に」

二叔の信雄、信孝へむかって、こう促すのさえ、頤のさきで、声こそ低かったが、業腹の沸りが息になって洩れたような語調だった。