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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

「…………」

「もし、御縁があって、次にまた何処かで、お目にかかる時があったら、あなたの眼が行き過ぎで、手前の云い分が、嘘でないことが証拠だてられましょう。――では手前は、約束どおり、これから蜂須賀七内様へ、お言伝だけ致しまして、そのまま、当地を退散いたしますから、あなたさまにも、ご機嫌よう。ずいぶんお大事に、ご勉強なされませ」

生来、口の達者な日吉が、思い切ってそう述べ立てている間、十兵衛は遂に、一言も吐かなかった。

――気がついて、

「針売り、待てッ」

と呼んだ時は、日吉の姿はもう、木の葉の暴風を衝いて、真っ暗な木立の奥へ走っていたため、十兵衛の声も届かなかった。

駈け抜けて行くと木立に囲まれた少しの平地がある。風も、ここは池のように、強くは当らなかった。

――見ると。

牧の野馬のように、寝そべったり坐ったり、漫然と立ったりしている、一団の人影が黒々とあった。

「誰だッ?」

立って、四方を睨めまわしていた一人がいった。――日吉の跫音へである。

「おらだ」

「日吉か」

「うむ……」

「どじめ。寝呆けたような返辞をして何処をまごついていたのだ。汝一名が見えぬため、皆で心配していたところじゃねえか」