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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
日輪・月輪
著者
日輪・月輪
日本の天文五年は、中国の明の嘉靖十五年の時にあたる。
日本では、その年の正月に、尾張の国熱田神領の――戸数わずか、五、六十戸しかない貧しい村の一軒で――藁屋根の下の藁のうえに奇異な赤ン坊が生れていた。
後の豊臣秀吉である。
生み落された嬰児は、母が貧しい物しか喰べていなかったので、五年樽の梅干みたいに、赤くて皺だらけだった。
藁廂の藁の先から、氷柱がさがっているような一月の寒さだったし、産褥を囲む小屏風一ツない家なので、嬰児は、へその緒を切られても、泣く力すらなかった。
――死んで生れたか。
と、みな思った。
でも、父の弥右衛門だの、知己の人たちが、産湯から上げて、お襁褓のうえへ転がしてみると、突然、呱々の声をあげた。
啼くだけ啼きぬくと、この嬰児はまた、百年の眠りから覚めたように、大きな欠伸を一つした。
――生きてるがなあ!
――何とか育とうによ!
襷をはずした手伝いの女たちは、そういって、せめて親の弥右衛門をなぐさめ、産婦を祝福したものだった。
………………………………………………
その年の頃。
隣邦の中国では、大同に兵乱があり、遼東が騒いだりしていたが、元の国号を革めて明としてから、朱氏数百年の治世はまだ揺ぎもしなかった。