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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
十兵衛光秀
斎藤道三とは、多年、貢がれもし、交誼も深い間がらには違いなかろうが、道三の人物を知らぬはずはない。悪逆非道な行いを見ていないことはない。
だのに、その道三と結び、父子の内争に、乱波の役をひきうけてやるなどは――どう考えても、日吉には与せなかった。
(盲千人。小六もまず、盲のひとりか)
と、嫌気がさして来ると共に、急にその小六の仲間からも、この城下からも、逃げ出したくなった。
十兵衛光秀
それは、十月末の、から風の強い日であった。
日吉が、いつもの木賃から、行商に出て行こうとすると、裏町の辻に、鼻を赤めて佇んでいた弓直しの彦十が、
「猿、これを」
と、側へ寄って来て、彼の手に一通の廻状を握らせ、
「――読んだら直ぐ、噛みつぶして、河の中へでも吐き捨ててしまえよ」
と、注意するなり、もう素知らぬ振りして、右と左に別れて行ってしまった。
「何だろ?」
およそ仲間の廻文という見当はついていたが、日吉は、気にかかって、いやな動悸を打っていた。
この仲間から去ろう。この土地から逃げ出そう。それは何度も、考えてみたが、ここに踏みとどまっているよりは、逃げる場合のほうが、遥かに、生命の危険があった。