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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

「蜂須賀七内どのか」

「左様」

七内は、急に、頭を高く持った。仲間の見ている手前もあるが、平常でも、主持ちの士とか、少し身分のある武士に対すと、下風にはつかぬぞ、諂いはせぬぞ――と殊さらに態度を持して示す――野武士たちの通有性でもあった。

それに反して。

一筋の槍こそ小脇にしているけれど、十兵衛光秀は、頭も低く、ことばも慇懃に、

「初めて、お目にかかるが、かねて小六殿の尊名と共に、お名は承知いたしています。――それがしは、道三秀龍様の幕下、明智光安が宅におる懸人――甥の十兵衛と申す若輩にござります」

相手の丁寧のあいさつに、七内は少し痺れ気味だった。

「で、――御用とは」

「こよいのことで」

「こよいのこととは、はて、何だろう?」

空嘯くと、

「そこにおる針売りから委細承って、驚きのあまり、馳せつけて来たのです。こよいの暴挙は――暴挙といっては失礼だが、兵法から按ずるも、道三様のお企てとも思えぬ下策。思い止まっていただきたいが」

「ならぬ」

七内は傲然と、

「わしの指図でするのじゃない。道三様のお頼みをうけた小六の指図でいたすことだ」

「ごもっとも」

と、逆わずに、十兵衛は、語調も常のとおりにいった。