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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
「どういたした、権六。顫いているではないか」
「かえって、御意に逆らいましたかと、恐縮の余りに」
「はははは。許す、許す。もう顔を上げい。――いや待て待て、儂の革足袋の紐が解けておる。権六、ついでに結んでくりゃれ」
「……はッ」
「佐渡」
「は」
「邪魔をいたしたのう」
「滅相もないおことば」
「したが、信長のみならず、四隣の敵国の客は、いつでも不意に来るものぞ。心して、留守をせよ」
「朝暮、心いたして、弓矢を磨いておりまする」
「そうか。頼もしい家来どもを持って、信長は安心。――いや信長のためばかりではない、まちがえばその方どもの首もないのじゃ。権六、よいか」
「お結びいたしました」
「大儀」
信長は、まだひれ伏している、三名の後ろを開けて、中廊下から玄関の方へ、大廻りして出て行った。
「…………」
柴田権六と、林佐渡、美作の三人は、真っ蒼な顔を見合って、一瞬、茫然としていたが、われに回ると、あわただしく、信長の後を追いかけて、再び、玄関の式台に平伏した。
――が、信長の姿はもうそこには見えない。
大手門の方へ降ってゆく幅の広い坂道の辺りに、ただ戛々と、蹄の音だけが聞えていた。