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ぎじんのすがた

日本の怪談

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談』。同一底本的分册已合并为一书。收入:義人の姿、宝蔵の短刀、村の怪談、猫の踊、幽霊の自筆、狐の手帳、貧乏神物語、怪僧、庭の怪、八人みさきの話、一緒に歩く亡霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 页

青空文庫

で一軒の旅籠屋を見つけて入って往った。

そして、暫く待っていると主翁(ていしゅ)が二人分の膳を持って来た。甚六は不審に思って、

「俺は一人じゃ、膳は二ついらないよ」と云うと、主翁は不審そうに室(へや)の内を見廻して、

「今、お前さんの後から、十二三に見える痩せた女の子が入って来て、私(わし)は今の客といっしょじゃと云うて、此処へ入りましたが、それじゃ、今の女の子はどうした者だろう」

甚六は頭がじゃんと鳴るような気がしたが、それとは口に出して云えないので、

「さあ、どうした者だろう」と、とぼけて云った。

「たしかに入りましたよ、蔦のような紋のついた古い浴衣を着て、髪も結わずに汚らしく垂らしておりました」

主翁は不審が晴れないので、起って往って障子の外の縁側を見たりした。

甚六は蒼い顔をして坐っていた。彼は箸をとる気にもなれなかった。そして、恐る恐る背後(うしろ)の方を見たりした。

「おかしいなあ、たしかに蔦のような紋のついた古い浴衣を着ていたが……」と、云いながら主翁は障子を閉めて甚六の前へ来たが、ふと甚六の蒼い顔を見つけて、「おかしいなあ」と、云い云い室を出て往った。