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ぎじんのすがた
日本の怪談
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談』。同一底本的分册已合并为一书。收入:義人の姿、宝蔵の短刀、村の怪談、猫の踊、幽霊の自筆、狐の手帳、貧乏神物語、怪僧、庭の怪、八人みさきの話、一緒に歩く亡霊。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 页
甚六はその後でしかたなしに箸を持ったが、背筋のあたりに悪感がして、口に入れたものは木屑か何かをたべているようで何の味もなかった。彼はそこそこに箸を置いた。そして、急いで帰ろうと思ってふと見ると、何時の間にか日が入って室の中が微暗くなっていた。岩坂から己(じぶん)の家まで二里位であるから、少し夜道をすれば帰れるが、この比(ごろ)のように怪異がありつづけては、途中でどんなことが起るかも判らないと思うと、さすがの甚六も夜道をする気になれないので、其処に一泊することにした。
甚六はその一夜が恐ろしく長かった。彼は何か怪しいことが起りはしないかと、心配しながら時どき眼を開けて、枕頭の微暗い有明の行灯の灯を見たが、その夜は別に怪しいこともなかった。
甚六は神様への祈願が次第に利いて来たのだと思った。そして、朝早く岩坂を出て帰りかけたが、坂下と云う小村まで来ると咽喉が乾いて来た。何処か水を飲む処か茶店があるまいかと思って注意して歩いていると、路傍(みちばた)に一軒の出茶屋を見つけた。甚六は好い処があるなと思ったので入って往った。
見るとその店に冷麦が笊(ざる)に入れてあった。