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ぎじんのすがた
日本の怪談
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談』。同一底本的分册已合并为一书。收入:義人の姿、宝蔵の短刀、村の怪談、猫の踊、幽霊の自筆、狐の手帳、貧乏神物語、怪僧、庭の怪、八人みさきの話、一緒に歩く亡霊。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 页
「ヘッ」と、甚六は恐ろしそうにして己の右側と左側とを見た。何人も傍にはいなかった。彼は目をきょときょとさした。
「それそれ、あなたの右側に、十二三になる女の小供がおりますよ、お伴さんではありませんか」と、主翁が云った。
甚六の頭に血がのぼった。彼は顔を蒼くして顫えていた。
「おや、おや、小女(こむすめ)がいなくなった、何処へ往ったろう」
と、主翁(ていしゅ)がまた云った。
甚六は主翁の方を見た。主翁は茶を汲んで来て甚六の前へ出した。
「けたいなことがあるものじゃ、まあ茶でも飲んで、気を落ちつけさっしゃるが好い」
甚六はその茶をもらって飲んだ。そして、やっと人心地が注(つ)いたがもう冷麦を喫う気にはなれなかった。
「……冷麦代も皿代も払うが、もう冷麦は喫いたくない、茶をも一つもらおうか」
主翁はまたべつの茶碗に茶を汲んで来た。
「魔がさしても、茶をおあがりになるなら大丈夫じゃ」
甚六は二杯目の茶を飲むと其処を出たが、こう崇りが大きいと神様の手でもどうすることもできないと見える、この上はフジにあやまって、許してもらうより他に途がないと思いだした。
その夜甚六と女房が行灯のもとで話していると、行灯が自然に浮きあがって室の中を彼方此方と動いて往った。