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ぎじんのすがた

日本の怪談

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談』。同一底本的分册已合并为一书。收入:義人の姿、宝蔵の短刀、村の怪談、猫の踊、幽霊の自筆、狐の手帳、貧乏神物語、怪僧、庭の怪、八人みさきの話、一緒に歩く亡霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 页

青空文庫

「恐れ入りました」

「何故あって姫を手にかけたのじゃ、早く云え」

と、国主は涙声になっている。

「諸人の害をなす狸を退治いたそうと思いまして」

「たわけ者、狸と姫と区別ができないか、武士の風上にも置けない奴、せいばいして姫の仇を執ってやる」

国主は徒者の一人に持たしてある刀を執って、それをすらりと抜いた。若侍はせめて殿様の手討にでもなれば、その罪がつぐなえると思って、腹を据えてしまった。

「暫く、暫く、暫く、暫く」

と、云う声がする。何人(なんびと)か手討を止める容子である。

「殿、如何なる大罪を犯したかは存じませんが、愚僧に免じて、どうか生命だけは……」

と、云うのは国主の信仰の厚い僧正であるらしい。

「姫を手にかけたる大罪人なれば、赦すまじき奴なれども、貴僧に免じて許しつかわす」

「そはありがたきしあわせにぞんじます、然らば、この者は今日より、愚僧の法弟といたして、姫の後世を弔わせます」

僧は若侍の傍へ寄って来た。

「我が君のありがたきお情けによって、一命は愚僧が貰いうけた、今日から出家して、愚僧の法弟になるが好い」

と云った。若侍は生命は既にないものと思っていたところであるから、非常に喜んだ。