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ぎじんのすがた
日本の怪談
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談』。同一底本的分册已合并为一书。收入:義人の姿、宝蔵の短刀、村の怪談、猫の踊、幽霊の自筆、狐の手帳、貧乏神物語、怪僧、庭の怪、八人みさきの話、一緒に歩く亡霊。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 页
「此処へ置いてまいりますから、好い時におあがりになってください」
新一は老婆がそうする間も茶の間にいて母のことを心配していた。新一の処へは遊び仲間が時どき誘いに来たが、彼は母が心配であるから往かなかった。
そのうちに夕方となったがお滝は出て来なかった。老婆は夕飯のことを思いだして其処の室へ往ってみた。お滝は腹這いになって足をとんとんとやっていたが、膳の上を見ると飯を喫ったと見えてお菜を荒してあった。
「御飯を持ってまいりましょうか」
お滝はやはり足をとんとんとやって返事をしなかった。老婆はその膳と飯鉢を持って台所のほうへ引返して、膳を洗い拵えたてのお菜をつけて、またお滝の傍へ持って往った。
「夕飯を持ってまいりましたから、おあがりなさい」
お滝は床の方を向いて肘枕をして寝ていた。
「いらないよ、彼方へお出で」
老婆が出て往って襖の締る音がすると、お滝は急に頭をあげて茶の間の方を見た後に、くるりと起きあがり、忙しそうに膳を引き寄せて飯を喫いだした。そして、四五杯も飯を掻き込んだかと思うと、直ぐまた引っくりかえって寝た。新一はそれを奥の襖の間から覗いていた。