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ぎじんのすがた
日本の怪談
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談』。同一底本的分册已合并为一书。收入:義人の姿、宝蔵の短刀、村の怪談、猫の踊、幽霊の自筆、狐の手帳、貧乏神物語、怪僧、庭の怪、八人みさきの話、一緒に歩く亡霊。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 页
「今晩は御厄介にあずかります」
飯田は鷹揚に云った。僧は軽薄な笑いを顔に浮べていた。
「お勤め御苦労に存じます、見らるるとおりの荒寺で、茶もろくろくおあげすることもできませんが、それで宜(よろ)しければ、ゆっくり御逗留なさいますように」
「なに、粮米の用意もある、今晩一晩御厄介になれば、明日はすぐ出発します」
そのうちに部下が厨(くりや)の方から手桶に水を入れて持って来たので、飯田は草鞋(わらじ)を解いてそれで足を洗ってあがると、僧は後から来て次の室(へや)へ案内した。塵の溜った狭い室であった。
「甚だ穢(きたな)い処で、お気の毒でございます」
こう云って僧が出て往くと、飯田は刀を除り、陣笠を脱いで、だんぶくろを穿いた体を畳の上に置いた。部下は炊事にかかったのかあがって来なかった。
軽い跫音がして何人(たれ)か入って来た。今の僧にしては跫音が違っているなと思って飯田は顔をあげた。壮い女が茶を持って来たところであった。飯田は驚いた。それは甲府の町にいるはずの妻ではないか。彼は一昨年甲府を脱走して京都に入り、勤王の士と往来しているうちに、鳥羽伏見の役となり、それから討幕の軍がおこったので、彼も土佐藩の手に属して故郷に来たものの、幕兵との戦(いくさ)があったために、甲府の町に往くこともできなかったが、二三日のうちに