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ばんしゅう
晩秋
山本 周五郎
「講談倶楽部」博文館、1945(昭和20)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,792 字 · 23 页
三
時に茶を点てていったりすると「こちらで申付ける以外には気を遣うには及ばないから」と云われさえした、それで都留もまた殆んど終日その部屋に籠っているという風だったのである。
主計は起きるから寝るまで、北向の窓の下に机を据え、側におびただしい書類を置いて、せっせとなにか書き物をしていた。庭へ出ることもなく、手足を伸ばしていることもなかった、食事を運んでいっても「うん」と頷いたきりなかなか筆を措かず、忘れたのかと思う頃にようやく向き直るようなこともしばしばだった。それが朝はまだ暗いうちから、夜は毎も午前二時頃に及ぶのである。……はじめのうち都留はそれを知らなかった。それでもう寝たじぶんであろうと思い、懐剣を握りしめて立とうとすると、書類を繰る音と、しわぶきの声が聞える。廊下まで出て、障子に燈火の揺れるのを見てひき返したことも二度や三度ではなかった。――いったいなにをあんなに熱心に書いているのだろう、剣をふところに秘めながら都留はいつかそういう好奇心をさえもち始めたのであった。
三
進藤主計は冷酷な人間として定評があった、奸譎な佞臣とさえ云われた。岡崎藩主、水野忠善の用人として、二十年ちかく藩政の実権を握っていたが、常に専断、頑迷、暴戻などと云われ、殊に最近の十年あまりは領内の寺院に対する圧迫と年貢の重課とで、非常