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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
四
いねはその方へきつい目を据え、黙って手を振った。
「明日まで待てえ、親方がわれに大和屋さんをやるいいよったぞ。家をだまってでたりしたらきかせんぞ」
大和屋はあと一軒残っている得意先であった。
四
「御破算でゆこうかいや」
そういう重吉の顔は晴々としていた。今まで、なまじ我身についている職にばかり頼ろうとしたところからかえって道が開けなかったというのが重吉の言分であった。なみの樽屋としてなら重吉一人ぐらい実際はどこへなりとせせりこめはしたが、ひと年入れた重吉にはそれができなかったし、たとえそうしたところでその収入だけでは大勢の家族は養っていけない。考えあぐねた末の知恵が商売をしてみようと思いついた。
「御破算でゆこう、御破算御破算、何もかも御破算」
きれいさっぱり樽屋の仕事を千吉に渡してしまった。小さい頼母子を結んでそれを資に始めたのが米と酒を売る店であった。仕事場を改造してだだっぴろい店ができた。米俵と酒樽が景気よく並び、皆を豊かな気持にさせた。だが、そんな気になることからして芯の底から商人ではない重吉一家は、士の商法とはまたちがう、しいていえば職人の商法的な下手さでたちまち行きつまらねばならなかった。