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こよみ

暦

壺井 栄

「新潮」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页

青空文庫

一二

ひそかな三人の話題にはおかまいなく、ほかの連中は大きな声でなおも話しつづけ、笑い合っている。杖をついた友吉爺さんと歩調を合せ、皆ゆっくりと歩いた。道は墓地のある丘の裾を上りかけたところで、午後の日ざしは背中に暑いほどであった。

一二

昨日カヤノが帰ってゆき、今日宵の上りで高子がたち、明方近くの下りでミチを送りだすと家の中はしんかんとした。

カヤノは一と月ほど遊んでゆくと息まいていたが、誰よりも先に帰っていった。その夜、近所の人たちもよんで年忌の看経をつとめ、その人たちが帰りかけるとカヤノまでがそわそわと荷物を片づけだした。クニ子も実枝もどうしたのだろうと思っていると、汽船の来る間近になってから、足もとから鳥が立つような慌て方でカヤノは帰るのだといいだした。あわてて土産ものを整え、息せききるようなあわただしさであった。それでも船の時間に間に合うと分るとカヤノはすまなさそうに桟橋の上で実枝に紙幣を握らせ、小さい声でいった。

「礼状書かんとってな、香典の方もやで」

実枝はうなずきながら、この姉が実家へ来るについて、作太郎がどんなことをいったかが分るような気がした。