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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
五
むしろその運命というようなものに好意でも持っているかのような顔つきで、「何事もするようにはならんで、なるようになる」といった。そして、もうだいぶ曲った腰をのばしのばし、孫たちといっしょに浜辺に立って、額に手をかざし、孫たちと同じような笑顔で船を迎えた。日向丸は艫の船底に船霊を祀り、その小さい神棚の右よりに赤いおき上りの小法師がぽつりと一つ置かれてあった。
五
重吉の案外に平穏無事な海の上の年月に比べて家の中には人生の波が暴れ騒いだ。陸の船頭役であるいねは、実枝がまだ二た誕生も来ぬ時にきゅうに倒れて、からだ半分が利かなくなった。半身不随という病気が、まだ年からいえば若いいねの上にのしかかってきたことは、何といっても永年の過労の上に、晩年実枝を生んだことなどが病気の時期を早めたものにちがいない。あの時に残りの力をしぼりきったのだろうと、皆そういいあって、そんなからだになっても乳呑児が、すきを見ては胸にすがりつこうとするのをいとしがった。顔面神経まで左半分利かなくなった歪んだ顔になり、鶏のように五本の指が内側へ萎えこんで、ばかになってしまった左手を片方の手で抱きかかえて、いねは我身の不仕合せを嘆いた。