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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
いねの優しい声にフサエはしくしく泣きだした。
「よその子にやったんか、え?」
それでも黙って泣いた。
「今度からやるな、店のものは皆んなまだ問屋の預りもんで家の物じゃないんじゃ、黙って持っていきよったら盗人になる」
そういわれるとカヤノも八重もきゅうに不安な顔つきに変った。
子供らは自分の家に何でも欲しいものがあるのが嬉しくてならなかった。ちょうど学校で紐かざりを習っていたフサエは赤いカタン糸で麻の葉や鼓などを縫い取りながら自分の家にはカタン糸ばかりでなくいろんな色の絹糸が仰山あると、つい自慢をした。すると並んでいるおすえさんという子が一かせくれという。明日持ってきてあげると答えると、それを聞いた誰も彼もがきゅうにフサエに向って、
「おくれ、おくれ、約束したで」と口々に言ってむりに指きりまでされてしまった。カタン糸は十二色並んでお菓子のようにつめられた小さい四角い箱が戸棚に並んでいる。絹糸の方は小になっていて色別に束にしたのが厚いたとう紙にくるくる包まれて抽出に入れてある。ひろげるとさまざまの色の一かたまりずつの糸が絵巻のように並んでいる。フサエは赤糸の束を懐ろに入れて次の日学校へ出かけたのであった。