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こよみ

暦

壺井 栄

「新潮」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页

青空文庫

それが、恭平と親しくなるにつれてますます磨かれ、輝いてゆくのであった。

「姉やん、実枝は時が来たら嫁にゆくで」

ある日実枝はそれとなくクニ子に宣言した。

「さあさあ、ゆきたい者はとっとと嫁になと婿になと行ってつかあされ」

そういわれると実枝はどう答えてよいか分らずむっとした。恭平とのことはもう公然の往き来であり、クニ子自身さえ、

「恭平さん、水仙の球根に赤インキぬったら赤い花が咲くんよ」などと、どこからか聞いてきたことを、農林学校出の恭平にたずねるほどの親しさを持っていた。それなのに実枝とのことについては、姉としての気持をいってくれるでもなく、こっちからいいだすと皮肉とも嫉妬ともとれるようなことをいう。

何も私の心を縛られることはなし、私は自分の信じる道をゆくんだから――。

実枝は気負いこんで内職で貯めたありったけの貯金を下げ、大阪へ行くといってその夜の船にのった。一人でごみごみした真昼の街をあてもなく歩き回った。ふところにある百円あまりの金を皆つかってしまおうと思ったが、買いたいものは何なのか見当がつかなかった。チボというものが自分のそばへよってきて、知らぬ間にこの金をすりとるかもしれないと、それとなくあたりを見回したが誰も彼も実枝などふりむきもせずに行き交う。