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ほんじょりょうごく
本所両国
「東京日日新聞」1927(昭和2)年5月6日〜22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,005 字 · 43 页
一銭蒸汽
そこは僕の住んでいた元町通りに比べると、はるかに人通りも少ければ「しもた家」も殆ど門並みだった。「椎の木松浦」のあった昔は暫く問わず、「江戸の横網鶯の鳴く」と北原白秋氏の歌った本所さえ今ではもう「歴史的大川端」に変ってしまったという外はない。如何に万法は流転するとはいえ、こういう変化の絶え間ない都会は世界中にも珍しいであろう。
僕等はいつか工事場らしい板囲いの前に通りかかった。そこにも労働者が二、三人、せっせと槌を動かしながら、大きい花崗石を削っていた。のみならず工事中の鉄橋さえ泥濁りに濁った大川の上へ長々と橋梁を横たえていた。僕はこの橋の名前は勿論、この橋の出来る話も聞いたことはなかった。震災は僕等のうしろにある「富士見の渡し」を滅してしまった。が、その代りに僕等の前には新しい鉄橋を造ろうとしている。……
「これは何という橋ですか?」
麦わら帽をかむった労働者の一人は矢張槌を動かしたまま、ちょっと僕の顔を見上げ、存外親切に返事をした。
「これですか? これは蔵前橋です。」
一銭蒸汽
僕等はそこから引き返して川蒸汽の客になるために横網の浮き桟橋へおりて行った。