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ほんじょりょうごく

本所両国

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1927(昭和2)年5月6日〜22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,005 字 · 43 页

青空文庫

萩寺あたり

たといデカダンスの詩人だったとしても、僕は決してこういう町裏を徘徊する気にはならなかったであろう。けれども明治時代の風刺詩人斎藤緑雨は、十二階に悪趣味そのものを見出している。すると明日の詩人たちは有田ドラックや愛聖館にもかれ等自身の『悪の花』を――或は又『善の花』を歌い上げることになるかも知れない。

萩寺あたり

僕は碌でもないことを考えながらふと愛聖館の掲示板を見上げた。するとそこに書いてあるのは確かこういう言葉だった。

「神様はこんなにたくさんの人間をお造りになりました。ですから人間を愛していらっしゃいます。」

産児制限論者は勿論、現世の人々はこういう言葉に微笑しない訳にはゆかないであろう。人口過剰に苦しんでいる僕等はこんなにたくさんの人間のいることを神の愛の証拠と思うことは出来ない。いや、寧ろ全能の主の憎しみの証拠とさえ思われるであろう。しかし本所の或場末に小学生を教育している僕の旧友の言葉に依れば、少なくともその界隈に住んでいる人々は子供の数の多い家ほど却って暮しも楽だということである。それは又どの家の子供も兎に角十か十一になるとそれぞれ子供なりに一日の賃金を稼いで来るからだということである。