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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

序の章

序の章

万治三年七月十八日。

幕府の老中から通知があって、伊達陸奥守の一族伊達兵部少輔、同じく宿老の大条兵庫、茂庭周防、片倉小十郎、原田甲斐。そして、伊達家の親族に当る立花飛騨守ら六人が、老中酒井雅楽頭の邸へ出頭した。

酒井邸には雅楽頭のほかに、同じく老中の阿部豊後守と稲葉美濃守が列坐していて、左のような申し渡しがあった。

「伊達むつの守、かねがね不作法の儀、上聞に達し、不届におぼしめさる、よってまず逼塞まかりあるべく、跡式の儀はかさねて仰せいださるべし」

こういう意味の譴責であったが、

「但し堀ざらいの普請はつづけるように」

ということが付け加えられた。

堀ざらいとは、その年の三月から幕府の命令で、伊達家が担当していた、小石川堀の修築工事をさすものである。

申し渡しのあと、太田摂津守が上使を命ぜられ、立花飛騨守と伊達兵部との三人で、伊達家の上屋敷へゆき、陸奥守綱宗にその旨を伝えた。

綱宗はすぐに品川の下屋敷へ移った。

明くる七月十九日の夜。

伊達家の浜屋敷の内にある坂本八郎左衛門の住居へ、二人の訪問者があった。坂本は浪人から取立てられた者で、食禄は六百石、目付役を勤めていた。