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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页
こおろぎ
「そこもと一人の敵ではない、そうだろう」
新八は俯向いた。
――兵部め、搾ってくれるぞ。
と六郎兵衛は思った。
――骨の髄まで搾ってくれるぞ。
彼は茶碗を置いて、「着物を出せ」と云った。おみやはすぐに立っていった。
「時期を待て、このおれが付いている」と六郎兵衛は云った、「いつか必ず、おれが討たせてやるぞ」
こおろぎ
「もうよくってよ」とおみやが云った、「着物はそっちで脱いでらっしゃい」
新八は「ええ」といった。彼は六郎兵衛の単衣を着ていた。この家へ来てから十余日、肌着や下のものはおみやが新調してくれたし、着物は六郎兵衛のお古を着せられていた。
「なにをしているの」と勝手でおみやが云った。
新八は「いま」と云いながら、不決断に帯を解いた。おみやが勝手口から顔を出した、「なにしてるの、あたしが脱がせてあげましょうか」
「大丈夫です」新八は下帯だけになった。
勝手はひどく狭い。そこに盥が置いてあり、半分ほど湯が入れてあった。おみやは手拭を渡しながら、新八と入れ換った。
「下帯をとりなさいな」おみやが云った、「今日は代りのがまだ乾いていないでしょ、それを濡らすと緊めるのがなくってよ」