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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页
夕なぎ
――ほかにお申付けはございませんか。
「彼はまだ品川へゆくようすはないか」
――わかりません。
「品川へは必ず供をしろ」
――はい。
「密行するかもしれないが、彼はそうしないと思うが、密行するもようだったら三段の法をとれ」
――わかりました。
「これを遣わす」
――これは、めっそうもない。
「取っておけ、おまえは役に立つやつだ」
夕なぎ
評定役の会議は、思いがけなく揉めて、それから四日もつづけて開かれた。甲斐はもっとも古参だったので、そのあいだぬけることができず、もちろん湯島へゆくひまもなかった。
会議の議題は、渡辺金兵衛ら三人を、どう処置するかという件であった。
七月十九日夜の暗殺事件には、少なくとも十人の刺客がいた筈であるが、なのって出たのは、渡辺金兵衛、渡辺七兵衛、そして小者の万右衛門だけであり、その三人は「自分たちだけで坂本、畑、渡辺、宮本らを仕止めた」と云い、ほかに参加した者はない、と主張した。
この事件はうやむやに片づけられそうであった。というのが、出来事のすぐあとで、重臣の評議があったとき、伊達兵部がまっさきに発言して、「かれら四人は侫奸な人間であった、金兵衛らはよくやった」