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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页
朝粥の会
「あたしは幾つだとお思いになって」
「いって飯を食おう」
「あたしが幾つだか御存じないんでしょ、あたしだってもう二十八ですよ、八年の余もお世話になっていて、ごぜんはまだいちども」
甲斐は襖のほうへ歩きだした。
「待って下さい」
「おまえどうかしているぞ」
「ええ、どうかしています」おくみはすばやく眼を拭いた、「初めておめにかかった奥さまが、あんまりお若くっておきれいなので、かっとしてしまったんです、堪忍して下さい」
「向うへゆこう」
「お客さまはどなたですか」
「伊東七十郎と、里見、蜂谷の三人、みんなおまえの知っている者ばかりだ」
「伊東さまは一昨日おめにかかりました」
「どこで、――」
「湯島へいらっしゃいました、お友達という方とごいっしょに」
そして「ちょっと顔を直してまいります」と云った。甲斐は襖をあけて去った。
朝粥の会
原田甲斐はよく朝の食事に人を招いた。
――粥をさしあげたい。
と云って人を招待するのである。これは十年ほどまえからの習慣で、「原田の朝粥」と、かなりひろく知られていた。もちろん粥を出すわけではない。正餐ほどではないにしても、ひととおり椀や皿や鉢ものが並ぶし、殆んど例外なしに酒が付いた。