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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

を求めるわけであるが、これまた一ノ関さまの主唱であり、異議なく一決したものであった。

――ここをよく記憶しておいてもらいたいのである。

甲斐はそうつづけた。

――一ノ関さまの存在が、このように重くなったのは、御先代(忠宗)の御他界このかたである。御他界のおり、みまいに来られた水府(水戸頼房)卿が、「つな宗どの若年なれば、兵部どのにはよくよく家中の取締りをたのむ」と仰せられたそうで、これが一ノ関さまの立場を決定的にした、といってもよいであろう。古内主膳(故国老)どのが御先代に殉死されるとき、「兵部さまのことが気がかりでならない、よくよく注意せよ」と遺言されたが、それから僅か二年、どうやらすでにその懸念があらわれはじめたように思われる。

――これまで自分は、幸いにして紛争の局外にいることができた。これからもできるだけ局外に立って、事のなりゆきを見まもっているつもりである。世継の君が決定しても、それで一藩が平安におさまるとは思えない。不測の事の起こる心配は、むしろそのあとにあると考えられるが、これについては、帰国のうえで申上げることにする。

甲斐はそこで筆をとめた。