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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

それは柿崎六郎兵衛であった。

丹三郎は新八に云った、「どうしたんだ、宇乃さんをどうするんだ、これはどういうわけだ」

「そこもとはなんだ」と云いながら、六郎兵衛が近よった。

丹三郎は相手の眼を見て危険を感じた。頭巾のあいだにあるその眼は、ぶきみな、殺気に似た光をおびていた。

「宇乃さん」と丹三郎は叫んだ、駕籠の中で、はいと答える声がした、「貴女は騙された、駕籠から出て下さい」

「駕籠をやれ」と六郎兵衛が云った、「小僧、邪魔をすると危ないぞ」

「宮本、この人は誰だ」

「おれは畑姉弟を救うのだ」と六郎兵衛が云った、「この姉弟の身が覘われているから、安全な場所へ匿まってやるんだ」

「貴方は誰です」

「なのる必要はない」と六郎兵衛は云った、「早く駕籠をやれ」

「そうはさせぬぞ」

丹三郎はとびさがって刀を抜いた。新八はがたがたとふるえていた。

風がさっと埃を吹きつけた。丹三郎は片側が武家屋敷で、門前に仲間のいるのを見た。門前を掃いていた二人の仲間は、なに事かというように、こちらを眺めていた。弥吉も五六間はなれた処に立っていた。六郎兵衛は刀の柄へ手をかけ、「新八、駕籠をやらぬか」