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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页
と叫びながら、丹三郎のほうへ近よって来た。
丹三郎は刀を青眼に構えたまま、喉いっぱいの声で絶叫した、「お願いです、助勢して下さい、お願いします」
まばらな往来の人たちが立停り、向うで見ていた二人の仲間のうち、一人が屋敷の門の中へとびこんでいった。眼の隅でそれを認めながら、丹三郎はなお叫びつづけた。
「私は伊達陸奥守の家来です、どうか助勢して下さい、これはかどわかしです」
「黙れ小僧」六郎兵衛が詰めよった。
丹三郎は脇へまわりながら叫びつづけた。向うで弥吉も同じことを喚きたてた。
駕籠は走りだした。丹三郎は六郎兵衛を避けながら、絶叫しつつ駕籠の先へ先へとぬけていった。だが、六郎兵衛はすぐに丹三郎を追いつめた。そこは愛宕山の下で、左に男坂の高い石段が見える。丹三郎は溝に架かった一間ばかりの石橋をとび、境内にはいりながら、「弥吉どの」と叫んだ。
「こっちは大丈夫だ、駕籠を追ってくれ」
弥吉の返辞が聞え、六郎兵衛が踏みこんで来た。
丹三郎は頭がかっとなった。踏み込んで来る六郎兵衛の体が、おそろしく巨きく、しかも圧倒的にみえた。斬られる、と丹三郎は思った。
六郎兵衛は彼を睨んだまま、ぐい、ぐいと近よりつつ、間合い二間ほどになると、刀の柄に手をかけた。