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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页
丹三郎は動けなかった。おれは斬られる、ともういちど思った。
だが、そのとき、五人の侍が、こっちへ駆けつけて来た。さっきの仲間が知らせて、そこの武家屋敷から、助勢に来てくれたのであろう。
「伊達家の方はどちらだ」とかれらの一人が呼びかけた。
「私です」と丹三郎が云った、「大事な預け人をかどわかされたのです。向うへゆく駕籠がそれです、どうか御助勢を願います」
「心得た」と云って、五人のうち二人は駕籠のあとを追い、三人はこっちへ来た。かれらは叫んだ。
「われわれは松平隠岐守の家臣だ、助勢するぞ」
六郎兵衛は向き直っていた。彼は刀の柄へかけた手を放し、冷やかに三人を見た。その冷たい眼光と、おちついた隙のない身構えを見て、松平家の三人は、さっと左右にひらいた。
六郎兵衛は事が失敗したのを認めた。
彼は松平家の三人を、一人ずつ順に眺め、それから丹三郎を見た。
「小僧――」と六郎兵衛は云った、「うまくやったな」
丹三郎はまだ刀を青眼につけていた。
六郎兵衛は頭巾のぐあいを直し、両手をふところに入れて、ゆっくりと通りの方へ歩きだした。ゆっくりと、一歩、一歩、ためすような足どりで、ふところ手をしたまま。