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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

断章(四)

丹三郎も松平家の人たちも、じっと息をつめて、それを見送るばかりだった。

六郎兵衛が通りへ出たとき、松平家の他の二人と、弥吉とで、宇乃と虎之助を伴れ戻して来た。弥吉が虎之助を抱いていた。六郎兵衛はそれには眼もくれずに、薬師小路へと曲っていった。

丹三郎は刀をおさめ、松平家の人たちに礼を述べると、宇乃のほうへ走っていった。

「宇乃さん、けがはないか」

「はい」と宇乃は彼を見あげた、「弟を風に当てたのが心配です、まだ発疹しきらないものですから」

「いそいで帰りましょう」

「宮本さまは、わたくしをどうしようとなすったのでしょうか」

「わかりません、しかしやがてわかるでしょう」

丹三郎はもういちど、松平家の人たちに礼を述べた。そして四人は、風のなかを、良源院へと帰った。

断章(四)

――仙台の奥山(大学)どのから、また密訴の書面がまいりました。

「二度めだな、なんといって来た」

――茂庭(周防)どのの弾劾です。

「なんと申しておる」

――綱宗さまの不行跡は茂庭どのがすすめたものである、小石川の堀普請がはかどらず、多額の失費を重ねて藩の財政を窮迫せしめ、なお臣下一統を加役金にて苦しめながら、いつ普請を終るとみえぬのも、総奉行としての茂庭どのの責任である。