轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

と甲斐は心のなかで云った。

――また起こったな。

出てゆこうとした律が、くるっと振向いて、良人の眼をまともにみつめた。なにか哀訴するようでもあり、挑むようでもある眼つきであった。甲斐は微笑しながら、頷いた。

「汗をながしておいで」と甲斐は云った。

律は眼を伏せながら云った、「今夜はゆっくりしていらっしゃれるのでしょう」

「そうらしいな」

「一年半ぶりですわ」

「いっておいで」

「きっとですよ」律はまた良人を見た、「きっと泊っていって下さいますわね」

甲斐は微笑した。

律の眼は、しばしば彼女の意志を裏切る。心のなかになにか動揺や変化が起こったとき、それを隠そうとすると、彼女の眼は隠そうとする意志とは反対に、その動揺や変化をあからさまに表白してしまう。結婚して十六年。甲斐はその事実を、幾たびかの経験でよく知っていた。

「おくみさん、きれいな方ね」律はそう云って、良人に笑いかけ、それから部屋を出ていった。

甲斐は村山喜兵衛をよんで、本邸へ使いにゆくように命じた。腹痛が起こったから今夜は湯島で泊る、という届けをするためであった。喜兵衛はすぐに出ていった。

まもなく数寄屋で酒宴がひらかれた。