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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,724 字 · 355 页
その中には梅本や大山もまじっていた。大山は、自分の順番になるのを待っている間に、ひょいと次郎の方をふりむき、
「本田、もう君に教わらなくても、やり方がわかったよ。」
と、その満月のような顔をにこにこさせた。次郎はそれに対してすこし顔をあからめたきりだった。
署名血判は、こうしてつぎつぎに進んでいった。そして二十名近くもそれを終ったころには、室内の空気はもうまるで一変していた。それはすでに血判を終って不安から解放されたものたちが、自由な気持でふざけあったり、ペンナイフを握ったままぐずぐずしている、思いきりのわるい新血判者たちを、はやし立てたりしたからであった。
そうした空気の中で、次郎も署名した。血判には左の中指を切ったが、幸いに誰もあやしむものがなかった。紙をまきつけていたくすり指はふかく折りまげてかくしていたのである。
馬田もしぶしぶながら最後近くなってとうとう署名した。彼は血判を恐がるような男ではなかった。しかし、血書が明らかに次郎の書いたものであることを知っていたし、それに第一、ストライキがそれで封じられてしまう結果になることが残念でならなかったので、最初のうち、署名反対者が一人でもあらわれたら、それに自分も便乗しようという肚でいたのだった。