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しんだちどり
死んだ千鳥
吉川 英治
「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1937(昭和12)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,539 字 · 32 页
然し、足を迅めて行くうちに、品川宿と大井の間で、一行十名ほどの仲間のすがたを、並木の彼方に見出した。
『おうーいっ』
賛五郎が手をあげて、追いついて行くと、立ち止まった仲間の者は、皆、
『おや、来られないと云った平田殿が来たわ』
と、意外な眼をして、彼を迎えた。
その中には、伏原半蔵もいた。
半蔵の顔は、ちょっと、青ざめて、眼の底にも狼狽えの光が走ったが、他の仲間と、磊落に笑い合っている賛五郎の様子をながめて、次第に安心して来たらしく、
『よう来られたなあ、平田氏。――貴公が加わらない事は、実に遺憾だと、今も道々、話していた所だった』
などと云ったり、
『急に御金策ができたとは、何としてもめでたい。さだめしあの御内方の優しい御内助であろうなあ。……いや、平田殿は果報者じゃよ、この中では、いちばんよい女房を持っておる』
などと、要らざる事を、頻りに喋舌りかけながら歩いた。
大井の茶店でいっぷくして、浜並木へ一同がかかった時である。――後から頻りと平田賛五郎の名を呼ぶ者がある。誰か? ――と振向いてみると、それも浪人仲間らしいが、編笠を被っていて、眼の前に来るまで、誰とも判断がつかなかった。