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しんだちどり
死んだ千鳥
吉川 英治
「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1937(昭和12)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,539 字 · 32 页
西京春信
お仕立も、吟味いたしたつもりでございますが』
『ほんに新し物になりましたね。頭巾のほうは』
『お頭巾も持って伺いましたが、ただ、お色がちと、派手気味に揚りましたので』
『まあ、よい色ですこと』
『御新造様のお好みは、お渋いうちにも、やはりちと派手気味が御意に召すようでございますな。いや、何ういたしまして、まだまだ、御新造様などはお地味なほうで、世間は派手になるばかりでございます。路考茶だとか、吉弥臙脂とか、それがあなた様、若いお娘だけの流行ではございませんので』
『これ、ちと声を静かにしやい。旦那様のお耳にふれると、又御機嫌を損じますから』
『あ、御在宅で。……これは何うも』
あわてて腰を上げながら、勘定書を出すと、墨江は、
『……一緒に』
と、低声で断って、そこの水屋障子をすぐ閉め切った。
西京春信
浪人してからは、米一粒の稼ぎもしていない。無為、坐食、そんな日がもう五年目になる――
『よく過ごして来られたもの』
と、平田賛五郎も、われながら不思議に思う。
しかも、夫婦共にまだ、どこか以前の気位を持していて、そう垢じみた生活に疲れてもいない。
『……だが、ここらがもう、底の底だろう』