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しんだちどり
死んだ千鳥
吉川 英治
「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1937(昭和12)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,539 字 · 32 页
よく似た男
『先日、仲間一同の前では、ついどうかなる気で、ああ約束してしまったが、弱ったなあ、何と違約の詫びをしようぞ。……』
呟いている間に、浪人仲間の客の二人は、浪人交際いらしい打解けた挨拶のうちに坐り込んだ。
そしてすぐ、勝手元の墨江の方へ、
『御内方。鴨を一羽提げて参ったのだが、何と、酒と鍋の物の支度をしてくださらぬか。明日となっては気忙しないから、明後日の門祝いをやってしまうのじゃ。……どうだ平田殿、いい鴨だろうが、飲めるぞこいつは』
と、伏原半蔵という四十がらみの浪人は、縄で提げて来た鴨の首を高くさし挙げて笑った。
よく似た男
青物屋とか酒屋とか、ちょっと其処らへ小買物に出るのでも、彼女は身綺麗な躾みを怠らなかった。いや、貧しくなればなる程、墨江は細心に、薄化粧や襟元に気をつけた。
若いし――縹緻は優れているし――それに世間摺れていないので、零落れてもまだ多分に、五百石取の若奥様だった香いが仄かである。
『じゃあ、すぐ届けておくれ』
酒屋でも青物屋でも、彼女が鷹揚にそういえば、何処でも、
『へい、すぐお後からお届けいたします』
嫌な顔をする店はなかった。